シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

86 フロラを迎える王子

「ちょうどだったな」
 階段のきわに来た王子は優雅に微笑んだ。
 フローレンスが馬車から降りるところだった。
 王子の後ろに立つ侍従長が、フォッフォッフォと笑った。
「これはまた一段と美しい。眼福でございます」
 そして後ろを振り返り、控えている三人の侍従たちに「ではまかせたぞ」と言い置くと、消える。
 王子は微笑んだまま、呆れ声でつぶやいた。
「まったく。侍従長までついてくるから何事かと思ったら……フロラを見に来たわけか」

 階段を上がったところで、ファウナ王子が待っていた。
「ようこそ。フローレンス嬢」
 王子は、藤花のような気品と典雅さのある微笑みを浮かべて迎える。
「ファウナス王子。お招きいただきまして、ありがとうございます」
 フロラはドレスのすそを広げて礼をする。背後の侍女は深く礼をして、そのまま控えた。
 顔を上げると、どこか腕白な微笑みが待っていた。
「来てくれてありがとう。フロラ」
 社交辞令ではない言葉がフローレンスを迎えた。
「いいえ。ファウナ王子」
 心からの笑みを返すと、王子が頬を染めた。
 照れたように顔を少し背けて、小さくつぶやく。
「今晩も……きれいだね」
 その言葉に、これまでならお世辞を受ける微笑みで「王子も素敵です」とすんなり返していたフロラだったが、今晩は違った。
「いいえ」
 王子と同じように、フロラも桜色に上気した。可憐な声が小さく続く。
「王子も、素敵です」
 そんな相手を見て、王子もさらにとまどう。
「そう? あ、ありがとう」
 二人とも、次の言葉を失って、しばしうつむき合う。
 そのとき、大広間で演奏されていた談笑用の音楽の調子が、ゆったりしたものから弾むようなものに変わった。
 桜色の沈黙がそこで切れた。二人は顔を見合わせる。
 王子はにっこり笑って、右手を差し出す。
「行こう」
「はい。王子」



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