シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

88 舞踏会の場景

 舞踏会が始まった。
 光の結晶のように輝くシャンデリアの下、大広間では、たくさんの男女が、華やかにそして優雅に踊る。
 音楽はワルツ。
 宝石とドレスに飾られて揺れる女性は花。
 しなやかに花を舞わせる男性は風。
 それぞれの振り付けをしながらも、同じリズムを刻む。 
「妖精のように可憐で軽やかなレディ。あなたに会えたのは、夢のような幸運です」
「わたしこそ嬉しいですわ。あなたのような素敵な方に誘っていただけるなんて。私の舞が軽やかなのは、私の心が喜びに浮き立っているからでしょう」
 出会いを得た初々しく若い男女もいる。 
「夜は長い。しかし夜は短い。愛する君よ、今晩は踊り明かそう」
「ええ、あなた」
 しっとりと落ち着き、年輪を刻んだ夫婦もいる。
 ファウナス王子をさがしていた令嬢たちも、他の青年からの誘いに応じている。
 王族たちも、踊りの輪に入った。
 皆、それぞれの相手と笑み交わし、語らい合いながら、一夜の宴に興じる。

 ファウナス王子は、フローレンスを天使のように軽々と扱う。
 背に手を回して少し持ち上げ、彼女が長いドレスのすそを踏んでも、転ばないように支える。
 自分自身は、相手の裾を踏まない自信がある。
 背筋をすっきりと伸ばし、前を向いて優雅に微笑む。シャンデリアの光に、濃い銀の髪が上品に輝き、薄紫の目が若者らしくいきいきと冴える。
 フローレンスは楽園の天女のように微笑みながら、王子の鮮やかな動きに添うように舞う。春風に踊る桜花のように、薄日に柔らかく輝く風花のように。
 いわくつきの美しいドレスは、二人の舞には一向に差し障らなかった。
 黒服の王子に白金色の乙女は、黒曜石と月光石のようで、色彩的にもとても美しかった。



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