会話が耳に入った王子は、思った。
珍しい。年上の女性からの注目を浴びている。
審美眼に勝る年上の女性たちから、純粋に賛嘆されるというのは、うれしい。
「フロラ、痛くない? 疲れない?」
舞踏用の優雅に華やいだ笑みのままで、フロラに小声でたずねると、相手も同じように微笑みを崩さずに答えた。
「大丈夫です。王子こそ大変でしょう? わたくし、もっと練習して、あなたに支えられなくてもしっかり踊れるようになりますね」
王子は小さく首を振る。
「ううん。フロラは上手。こうしているのはね、用心のためにだよ」
笑みを華やかなものにして、王子はくるりとターンをした。
それに従い、フロラのドレスのすそが、かすかに混じった金糸が細かな光を放ちながら、ふわりと広がり揺れた。
やっぱり素敵、あのドレス。という言葉が再び耳に入った。王子は優雅な笑みの合い間に、ちょっと腕白に笑った。誇らしそうだった。
「今日は、少し楽しいな」
フロラは、王子の一瞬の笑い顔を見て、興味を覚えて微笑んだ。
「どうされました?」
王子は軽く笑いなおして、問いかけた相手の顔を見下ろす。
「いつもとは違う意味で注目されているから、面白くてね」
「ドレスのことですか?」
「うん。でも、クリスティーナには言わないで欲しいな。私が楽しんでいたって知ったら、次はどんな難題を持ち出すかわからないから」
フロラは、おかしそうに笑った。
「はい。秘密にします」
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