夜半前。
舞踏会は続く。
それをこっそり中座した二人は、大広間を時計室のある通路側に出た。
しかし、後ろから、数人の令嬢たちがつけてきた。
「ファウナス王子さま」
砂糖菓子のような声で呼びかけられて、ファウナ王子は振り返る。彼の左隣にはフローレンスがいる。
令嬢の全員が全員とも、フリルやレースをふんだんに用いた淡い色のドレスを着ている。「これが王子の好みだ」という噂に基づいて、厳選しているらしい。
彼女たちはにこやかに微笑む。まるで、春日に揺れる桃の花のように、優しく柔らかな表情で。が、瞳には、強い光があった。
彼女たちは、フローレンスのドレスをちらちらと見てそれとなく観察しながらも、主に王子を熱っぽく見つめる。
令嬢たちの中にはガーネットもいた。
昼に時計室前を占拠していた元気の良い令嬢たちもいる。
「お帰りですか?」
幻の姫君が、最初にたずねた。愛らしい微笑みを浮かべて。
化粧はやはり厚かった。
ファウナ王子は、鷹揚に笑ってうなずく。
「ええ」
すると、別の令嬢が、均質な集団に埋没しそうな自分の存在を誇示するように、王子の方に一歩踏み出した。その瞬間、他の令嬢たちはほんのかすかに表情を硬くする。
彼女は作り込んだ笑顔を描いて甘い声を奏でる。
「まあ。とても残念ですわ」
同じようにして、令嬢がもう一人、王子に近寄った。
「私たち、王子様と是非お話したいと思っておりましたのに」
二人は、昼に時計室前に来ていた乙女たちだった。あのときは金銀原色の派手派手しい衣装だったが。見事に趣味が変わっている。
「いかがでしょうか、王子様」
乙女たちは、一斉に、花びらがこぼれ落ちるような甘い上目遣いで王子を見た。しかし、張り詰めた緊張感も共にあった。
「少しの間だけ、わたくしたちとお話ししてくださいませんか?」
|