シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

91 引きとめる花々

 夜半前。
 舞踏会は続く。
 それをこっそり中座した二人は、大広間を時計室のある通路側に出た。
 しかし、後ろから、数人の令嬢たちがつけてきた。
「ファウナス王子さま」
 砂糖菓子のような声で呼びかけられて、ファウナ王子は振り返る。彼の左隣にはフローレンスがいる。
 令嬢の全員が全員とも、フリルやレースをふんだんに用いた淡い色のドレスを着ている。「これが王子の好みだ」という噂に基づいて、厳選しているらしい。
 彼女たちはにこやかに微笑む。まるで、春日に揺れる桃の花のように、優しく柔らかな表情で。が、瞳には、強い光があった。
 彼女たちは、フローレンスのドレスをちらちらと見てそれとなく観察しながらも、主に王子を熱っぽく見つめる。
 令嬢たちの中にはガーネットもいた。
 昼に時計室前を占拠していた元気の良い令嬢たちもいる。
「お帰りですか?」
 幻の姫君が、最初にたずねた。愛らしい微笑みを浮かべて。
 化粧はやはり厚かった。
 ファウナ王子は、鷹揚に笑ってうなずく。
「ええ」
 すると、別の令嬢が、均質な集団に埋没しそうな自分の存在を誇示するように、王子の方に一歩踏み出した。その瞬間、他の令嬢たちはほんのかすかに表情を硬くする。
 彼女は作り込んだ笑顔を描いて甘い声を奏でる。
「まあ。とても残念ですわ」
 同じようにして、令嬢がもう一人、王子に近寄った。
「私たち、王子様と是非お話したいと思っておりましたのに」
 二人は、昼に時計室前に来ていた乙女たちだった。あのときは金銀原色の派手派手しい衣装だったが。見事に趣味が変わっている。
「いかがでしょうか、王子様」 
 乙女たちは、一斉に、花びらがこぼれ落ちるような甘い上目遣いで王子を見た。しかし、張り詰めた緊張感も共にあった。
「少しの間だけ、わたくしたちとお話ししてくださいませんか?」



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