シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

93 魔法使いの色目

 ファセットの令嬢が、最初に答えた。
「楽しゅうございました。ですが、ただ、」
 思わせぶりに長いまつ毛を伏せて、幻の姫君は極上の笑みを作って、顔を上げた。つる薔薇で作った鎖のように、甘く鋭く相手の心を縛る、魔女の『微笑み』だった。
 王子は目をそらさなかった。
「ただ?」
 ガーネットの銀の瞳を、じつと見通した。高貴な微笑みと共に。
 王子と魔法使いの姫とが、見合う。
 王子は、笑みながら強く思う。
 逃げるものか。この魔法使いの色目を克服しないことには、私にとって自由な未来はない。
 頭の芯が痺れたように感覚が鈍ってきた。が、……こんなもの、クリスティーナから受けるいびりに比べれば、何のことはない。
 やがて、

「クリスティーナね……」

 ファセットの令嬢から、言葉が小さく漏れた。この場には関係がなさそうな、王宮魔法使いの名前が。
「え?」
 誰がクリスティーナだ、と、王子は内心で不快な気持ちになる。
 あの根性悪の名前は、こんな厳しい環境の中では特に聞きたくない。



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