だが、ガーネットの表情の変化を見て、王子は驚く。表には出さずに、内心で。
「いいえ。なんでもございません。……ファウナス王子様」
なんと、ガーネットは陶酔した顔で、ファウナ王子を見上げていた。
「素敵な舞踏会でございました」
王子は、きょとんとした。
一体どうしたのだろう? この魔法使いは。
「ガーネット嬢? どうしました? どこか具合でも悪いのですか?」
思わずそう聞いた。
「いいえ」
幻の姫君は、頬を薔薇色にふわりと染めた。
「いいえ、どうかお気になさらないでください」
いたたまれないような切なげな顔になって、ガーネットは、身を翻した。
「ごきげんよう。ファウナス王子様」
小さな白い両手で恥ずかしそうに顔を覆って、ファセットの魔法使いは、大広間に駆け戻って行った。
「?」
王子は、派手に転ばなければ良いがと思いながら、遠ざかる彼女の華奢な背中を見送った。
「どうなさったのかしら? ガーネット様」
令嬢たちはお互いに顔を見合わせた。
王子にも訳がわからない。だが、とりあえず助かった。
残ったのは、普通の人間ばかりだ。楽にあしらえる。
王子は、心から微笑んだ。
「ガーネット嬢は戻りましたね。さて、あなたがたは楽しまれましたか?」
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