シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

95 今夜で終わり

「お疲れ様。フロラ」
「お疲れ様です。王子」
 時計室で、二人は労い合う。
 大きく息を吐いて、王子は伸びをした。歯車を見上げる。
「踊るのは好きなんだけどね」
 フロラは、緊張を解いた王子を見て、柔らかく笑う。
「でも。王子、今晩はいつもよりも楽しそうでしたよ?」
 王子は、それを聞いて、深く微笑んだ。視線をフロラに向ける。
「うん。もう逃げないって決めたんだ」
「逃げない?」
 ファウナ王子はうなずいた。
 自分の心を確認するように、少しうつむき加減で微笑む。
「令嬢たちからも、自分の心からも、逃げないって決めたんだ」
 そして顔を上げ、どこか腕白に笑う。
「良く考えたら、クリスティーナや侍従長より怖いものなんて、あんまりないしね」
 それを聞いて、フロラはふきだした。
「たしかに、そうですね」
「うん」
 王子は、フロラが笑ったのを嬉しそうに見つめてから、言った。
「私は、もっと強くなるよ。フロラ」
「今でも強いですよ。王子」
「ううん」
 ファウナ王子は首を振った。
「心が弱いんだ。頑張って、あなたくらい、強くなるから」
 優しい青い瞳を、愛しそうに見返す。
「だから、フロラ。舞踏会への強制参加は今晩限りでおしまい」
「ファウナ王子、」
 フロラは、目を見開いた。
 王子は苦笑しながら、言葉を続ける。
「あなたを誘いたい気持ちはいっぱいなんだ。だから、僕は寂しいけどね。でも、フロラの優しさに甘えていたら、いつまでも一人立ちできない」
 どういう表情を見せればいいのかわからないでいるフロラに、王子は、気にしないでと首を振った。
「見てて。一人前になるから」
 明るい笑みを残し、王子は先に部屋を出た。

 その後のフロラを、王子は知らない。



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