外は晴れているというのに、心は晴れない。
白い前掛けをつけたフロラは厨房に立つ。
お菓子を作っていた。果物のタルトを。休日無しで大学に通い詰めの上級生や教官たちへ差し入れするつもりだった。
タルト皮が入っているオーブンからは、バターの香りが漂ってくる。
小さな鍋には、まろやかなカスタードクリームが出来上がっている。
ガラス瓶の中には、艶々と輝くリンゴやナシや栗の砂糖煮が、小さなざるの中には、弾むように新鮮な生のイチゴやオレンジが入っている。
フロラは、流しにある北に開いた窓を見つめて、今日何度目かのため息を静かについた。
昨日はファウナ王子から、想いを告げられた。
王子のことは確かに好きだけれど、恋かどうかはわからない。恋を知らないから。
王子のことが好きだから、「もう踊らなくていいよ」と言われたとき、寂しかった。これは、恋しているから寂しいのか? それとも、ただ寂しいだけなのか。
フロラは、再び息をつく。
「王子はどれくらい寂しいのかしら……」
焼きあがった最後のタルト生地を取り出すべく、オーブンのふたを開ける。
肉親の愛情は知っている。
友達への愛情も知っている。
恋の愛情は……わからない。
王子の寂しさと私の寂しさ、比べられたら、きっと、わかるのに。
「でも。気持ちは目に見えないものだから、比べることなんて、できないわね」
さらにため息をついて、フロラは、オーブンの中に手を入れた。
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