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歌帖楓月



5 「三日月国の物語 命の天秤第一部」の下書回廊

 斎葵(サイキ)=ソルバイト=スティール
 「凍れる未来」という異名を持つ、王子がいた。彼の短い髪は冷気を放ちそうに青白く、瞳は暗い青、それらは、共に北方の海の色だった。国で一番大きな蒼石がその柄に埋め込まれた宝剣「氷刃」を所持しており、彼とその剣は、何人もの王位継承者を葬ってきた。

 白い曇り空、色の無い陽光に照らされる黒い森、澄み切って蛇行する大河にも鮮やかな色は無く水底の黒い岩を透かしている。
 色の無い、冷たい、澄んだ、国。
 それが、過去の、鋼の国だった。

 斎葵には、一人だけ、心を許したものがいた。
「蓮」
 それは、豪奢な長い金髪で、鮮やかな翠の目を持ち、ひどく美しく強い、同い年のように見える、
「父上に名代を頼まれた」
 王子の、心の色の無い声掛けに応じたのは、
「そうか」
 同じように色の無い声だった。
「面倒なので、独りで行くことにした」
「そうか」
「ああ」
 王子は、このものに会うために、灰色の王宮を出て、その裏手に広がる北の森の中にある、忘れられた、王子以外誰も来るものの無い、遺跡の塔に、足を踏み入れていた。
「帰ってこられるかは、わからない」
「……」
 石床の上に直接腰を下ろして、王子を目の前に起立することもなく、相手を立たせたままで話を聞いていた、そのものは、少し、目を見開いた。
「気弱な話をする」
「……国境が怖いのだ」
「何を言っているのか私にはわからない」
「死ぬかもしれないと言っているのだ」
「……」
 淡々と言葉を交わして、そして、王子は石床に片膝をついた。
「……斎葵?」




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