やがて、ぼろ布のように泣いていた女は立ち上がった。男が床に投げ捨てた紫のドレスを身につける。額からは、娘に蹴られた傷から血が流れ、左頬は男にぶたれて赤く腫れ上がっていた。舞踏会の時には紅玉と金とで結い飾られていた髪は、今や、トウモロコシの房のように振り乱れて、面影すらない。
「ローズ、」
女は枯れ果てた低いかすれ声で、足元に転がっている丸々と肥えた娘を見下ろした。
「ローズ、」
2度目に呼んだとき、白目をむいていた娘は意識を取り戻した。
どんよりした目をしばし彷徨わせたのち、遠く真上にある母の顔に焦点を合わせた。
ローズの目は、まずおびえて揺れ、すぐに、それを追いかけるように、憎しみでぎらりと光った。
「ううううう、」
ローズは、言葉を発することなく、うなった。
「うううううう、」
威嚇する大型犬のような声だった。
そして、いつまでたっても、言葉は出てこなかった。
母から激しく踏み付けられた体は、ぶるぶる震えるばかりで、いっこうに起き上がる気配もない。
母は、娘を苦い表情で一瞥した後、部屋を出た。高熱にうなされたように、同じ言葉を何度も言いながら。
「プリムラ……、プリムラ、」
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