フロラは瞬いた。
「? なんでしょう?」
王子は、慎重な中にも真剣な表情で見つめた。
「今まで私が妃を選ばなかったのは、他にやりたいことがあるからだけではないんだ」
「では、他に何か?」
「うん」
王子はうなずいた。一言一言を、掘り出した宝石のように、大切に言う。
「私には、心に決めた人がいる」
それを聞いて、フロラは目を見開いた。
「そう、だったのですか」
そして、微笑んでくれた。
「それなら良かった。嫌なことを強制されているのかと思っておりました。お相手がいらっしゃるのでしたら、逃げるのも辛くはありませんね」
王子は首を振って、照れた微笑みと苦笑とを混ぜて浮かべた。
「ううん。相手はまだ私の気持ちを知らないんだ」
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