朝になった。
「卯月」
今朝のホットケーキを、フライパンから同居人の皿にほとりと落とし、メイプルシロップとバターをのせてやりながら、ウヅキは険しい顔で卯月に詰め寄った。
「お前に、どうしても聞きたいことがある」
「ほえ?」
「お前、ちゃんと風呂に入ってるのか!?」
「はァ?」
卯月は「何言ってんだこいつアホか?」という顔で、つくづくと青年を見た後、答えた。
「当たり前だろ。昨日も入ってただろ。お前知ってるだろ?」
「だったら! なんで生臭いんだ!?」
「……は?」
「卯月は生臭い!」
ウヅキはそう言い切ると、フライパンを火に掛けに行き、それにホットケーキの種を流しいれ、また戻ってきた。
その間に、卯月は自分の臭いをかいでいた。
「別に臭くねえよ」
「寝台半分貸した私が言うんだから間違いない。生臭い。……お前、髪洗ってるか?」
「洗ってるともさ。週に一回」
「……」
胸を張って堂々と答えられてしまい、ウヅキが頭を抱えて床にしゃがみこんだ。
「お前……。それで、昨日は洗ったのか?」
よろよろと顔を上げて聞かれたので、卯月は正直にハキハキと答えた。もとより偽る気はない。
「いいや。今度洗うのは、あさって!」
「毎日洗えッ!」
「なんでそんなに怒ってんだよ?」
立ち上がったウヅキに、卯月は「朝から元気な奴だなあ」とへらへら笑って、偉そうに教え諭した。
「ウヅキは物知らずだなあ。ようし、ためになること教えてやる。髪なんか週に一度洗えばちょうどいいんだ。お前、毎日なんか洗ってみろ、髪の毛溶けちまうぞ。コレ常識だ」
「そんな常識はどこにもない! あ、ちょっと待ってろ」
ウヅキは足音高くフライパンのところに行き、ホットケーキをひっくり返してまた戻ってきた。
「とにかくだ。髪は毎日洗え! あと、念のために言っておくが、体も毎日洗えよ!? いいか? 絶対だぞ」
「えー、なんだよそれぇ、」
卯月がほっぺたをプウと膨らました。
「そんなのお前に命令されることじゃねーだろ」
「……」
そう言われてみれば、確かにそうだった。
夕べまで気づかなかったのだし。寝台を半分貸すという状況になって、初めてわかったことだ。
「そうだな」
ウヅキは考えを改めた。
「一緒に寝ることなんてもう無いしな。お前の生活習慣に口出す必要もないか。部屋さえ散らかさなければ」
「……」
卯月が押し黙った。息を呑んだ様子だった。
「どうした卯月?」
ウヅキがいぶかしむと、少女は涙目で見上げた。
「そうしないと一緒に寝てくれないのかァ!?」
家主はあっさりうなずく。
「ああ。もう必要はないだろ。昨日みたいなことなんか、もう無い」
言い切る青年に、卯月はおずおずと聞いた。
「……そっかなあ? もう、無いかなぁ?」
びくびくしている彼女が少し可哀想になり、ウヅキは生臭い頭をちょっとだけ撫でてやった。後で手を洗えばいい。
「そうだよ。ほら食え。冷えるぞ」
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