前触れも気配も何もなかった。
突如、境内に、新殻衛兵が姿を現した。
十や二十ではない。百はゆうに超えていた。
白く、鏡のような艶をもった鎧甲冑で、頭のてっぺんからつま先まで、すきまなく武装した人型の者たちが。
祐人は、顔色を無くした。
『な! そんなっ!? いきなり、どうして?』
自分の直下にいる雪葉を見つめ、再び、新殻衛兵の方を見た。
うわ言のような、不明瞭な言葉がこぼれた。
『累機衆達は、どうしたんだ? お父様たちは、どうした? こいつらを防げなかったのか……? まさか、やられた?』
『祐人』
雪葉が、祐人へ、静かにたずねた。
『新殻衛兵達は、苦界の者?』
祐人は、チッ、と、舌打ちをした。
『教えたダろ! ソウだよ! なんだよユキハ! お前、もっト賢い女かト思っテタのに、モウ忘れタのか? バーかっ!』
「雪葉を渡せ」
新殻衛兵達が、言葉を紡いだ。
初めて、兵の声を耳にした祐人は、ぞっとした。
『しゃ、しゃべレるのか? こいツら!』
「祐人よ退け。お前が捕らえている雪葉を渡せ」
新殻衛兵たちは、二人へと近づいた。
『え、わ!』
足を動かすこともせず。鎧を揺らす音一つ立てずに。
『いつもとチがうぞこいつら!」
新殻衛兵とは、重々しい装備の音と共に、無言で襲ってくる者たちだったはずだ。
なのに、今。彼らは言葉を発し、無音で近づいてくる。
「雪葉を渡せ」
『うわあ! い、イラナいよ! にんゲンなんか!』
祐人は叫び、雪葉から立ち上がると、社に走った。
『だケド凶星はボくのモノだ!』
賽銭箱を飛び越え、軒に取り付けられた大鈴から伸びる三色の組みひもを振り払って杉材の格子戸をきしませながら開け、祐人は社へ転げ込んだ。
『凶セイは、キョう星はっ! 僕の物だ!』
「こわいぞこの少年。気味悪っ!」
ノウリジの目には、祐人の行動が奇態なものとしか映らなかった。
「しゃべり方が、いきなり変。それにしても。彼らはどこの賢者のものだと思う? インテリジェ」
いまだに理解できないが、とにかく切羽詰った状況だ。首を傾げながら、ノウリジは、隣の友に尋ねてみた。
「あれ」
つもりだったのだが。
「インテリジェ……?」
紫の賢者の姿は、なかった。
|