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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


43

 暗い部屋には、その主と、たくさんの人質たちが、いた。
 主は笑う。
 人質たちは、疲れ果てている。
 そこに、小鳥が現われる。
「仲間に入れて?」
 小鳥は人質たちに呼びかける。
 人質たちは、「新しい仲間?」と、たずねる。
 小鳥はうなずいた。
「そう。私が一番目になるわ」
「ま! 勇気があるのね!」
 人質の一人が、心底驚いていた。
「じゃんけんで決めようかって、話していたところだったのよ? 私たち」
「じゃあ、それは必要なくなったわ」
 雪葉は、この部屋の一番奥に歩いていった。
 一番奥には、寝床があった。
 上には、部屋の主が座ってた。
「ここをゆずっていただける?」
 主は、申し出を受けて、口を開けた。驚きで。
「あなた……正気なの?」
 小鳥はうなずく。
「そうよ?」
 身を屈めて、雪葉は部屋の主と同じ目線になる。
「ゆずっていただける?」
 主は、寝床の枕元にある灯りをともした。橙色の小さな光が、しずしずと姿をあらわす。
「……制服? 制服を着てる?」
 主は雪葉の格好を見て、ますます信じられない様子で、聞いた。
「そうよ?」
「何を考えているの?」
「きっと、あなたと同じことを」
「信じられない人」
 主は寝床から降りた。ふらりと。
 長い長い髪をひきずって、歩き出す。髪は膝の辺りまで届いていた。
 それを見て、雪葉はたずねた。
「長い髪が好きなの?」
 主は、不快そうに首を振る。
「とんでもない。好きなのは、わたしじゃないわ」
 雪葉はそれを聞くとうなずいた。
「わかったわ」
 ためらいもなく寝台の上にのぼり、雪葉は自分の髪を手で引いた。
 それまで、背中までの長さであったものが、伸びた。思うさま引いて、くるぶしの長さにまでした。
 そばで見ていた部屋の主は、ぐっと喉を鳴らした。驚きの悲鳴をを押し殺していた。
 雪葉はそんな相手を見て、微笑む。
「恐い?」
 うなずきが返った。
「……恐くないと言ったら嘘になるわ。あなたの考えも理解できないし。そんなことができるあなた自身も信じられないわ」
「ふふ」
 さして気分も害さずに笑う雪葉は、伸びた髪を手ですいた。漆黒の美しい艶めく髪が、さらさらと寝台に広がる。
 思わず息を呑むような、美麗な少女が、寝台の上に座っている。
「部屋の隅に行っていて。あなた方全員」
「そんなわけにはいかないわ?」
 人質の一人が、気丈にも立ち上がると反論した。
「私たちだって、役目を与えられたのだもの」
 今度は、雪葉が呆れる番だった。
「……あなたたち、何を言っているのか、わかっているの?」
 人質たちは、向日葵のように明るく、まっさらに明るく笑った。
 およそ、世間知らずの娘とは思えぬ、つけいるすきのない強い明るい笑みだった。
「もちろんよ!」


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