万の物語/四万ヒット目/四方山話〜賢者達のお家事情〜

四方山話〜賢者達のお家事情〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)




南賢者の住宅事情

ノウリジ:
 お。続いちゃったな。
 じゃあ、今回はうちの屋敷を探検してみよう。
 今、俺が立ってるのが、玄関入ってすぐのところな?
 南向きの玄関なんだ。広さは、そうだな、寝台が五つくらい置けるかな。沢山住んでるから、まあ今んところ、この広さで……

 (言ってる間に、いきなり玄関の天井が破れる)
 バキバキグシャ!
 (白い甲冑を身に着けた男が落下してきた)

ノウリジ:
 うお? なんだお前?

白い甲冑の男:
 (あわてふためき)
 し、失礼いたしましたお上! 中二階を改築しようとしておりましたら、隠し部屋を発見しまして、そこに……
(言葉の途中で姿消滅)

ノウリジ:
 おい? おーい?
 ……気になるなぁ、もう。

星華:
 様子を見てまいります。

ノウリジ:
 ああ頼む。
 じゃあ、どんどん奥に進んでいくぞー。
 自分の家だけど、正直、どんな造りになってるかわかんないんだよな。うちの新殻衛兵も累機衆も(俺も)各自好きなように増築して、思い思いに部屋造ってくからなー。天井に隠し部屋があったり、床が開いて秘密通路があったり。面白いけどな。
(歩いていく)
 廊下のそうじは行き届いてるな。明るい茶色の木でできてて、ツルッツルだ。よーくすべるぞー? そうじすんのは累機衆。
 廊下の両側はどっちも大広間だな。俺は今、北向きに立ってる。右の大広間が累機衆用、左は新殻衛兵用の大広間。ここで飯食ったりするんだ。え? 「物」に飯がいるのかって? うん、要るといえば要るし、そうでないといえばそうでない。動力源の一つだな。
 ……と、突き当たりだ。下半分がガラス張りになってる障子があって、その向こうに坪庭がある。
 (障子開ける)
 えー、水がめがある。中には水草が浮いていて……お、水草に名前札がついてるぞ? ふうん「ホテイアオイ」だってさ。池の中には金魚が泳いでるな。真っ赤なのが2匹いる。

 ぶくぶくぶく。
 (突然、水がめが泡立つ)

ノウリジ:
 なんだ? 他になんかいるのか?

ダバン!
 (水音。かめから人のようなものが這い上がってきた)

ノウリジ:
 ……?

 (頭巾から衣まで真っ黒の累機衆(男)だった)

ノウリジ:
 なにやってんの? そんなとこから出てきて?

累機衆の男:
 (坪庭に土下座)
 お上、申し訳ございません!
 お屋敷を増築しておりましたら、大変なものを見つけてしまいました!
 とりいそぎ報告まで! ではっ!
 (消失)

ノウリジ:
 報告するなら具体的にだなあ……って、もういないし。
 さっきの奴といい、今のこいつといい、一体、何やったんだよ?
 (何気なく水がめのなかをのぞきこむ)
 こんなとこから出てきてさあ?

(水がめから、今度は、「矢印」がにゅっと出てきた)

ノウリジ:
 ほえ?
 (呆気)

(「矢印」がノウリジを水がめの中に引きずり込む)

ノウリジ:
 なんだー!?

(ノウリジ、水がめの中へ……)

(間)

ノウリジ:
 (次に現われた所は中二階の増築現場)
 !?
 あれ!? 今度はどこだ!?
 ……って、あ、俺の屋敷か。戻ってきたのか。ほっ。
 (脱力)
 うう。あの水がめにあんな機能ついてたっけ?

(増築現場にいた累機衆と新殻衛兵が数人駆け寄ってくる)

累機衆&新殻衛兵:
 お上! ご無事でしたか!

ノウリジ:
 んあー。何とか無事。
 あれ? なんで訳知りなんだよお前ら。

星華:
 お上。実は、増築工事をしていましたところ、床下(中二階の床下)に隠し収納部屋が見つかりまして。

ノウリジ:
 隠し収納部屋?

星華:
 はい。中で、こんなものが見つかったのです。
 (色あせた紙製の書類挟みを見せる)

ノウリジ:
 これ、書類入れか?
 (星華から受け取る)

星華:
 開けてはなりません。開ければ、誰かしら異界に引き込まれてしまいます。

ノウリジ:
 わかった。
 あれ? 表面に文字らしきものが書いてあるな。
 なになに……
 「html」?
 何語だ?
 (記憶をたどる)
 ああ!

星華:
 何か思い出されましたか?

ノウリジ:
 思い出した。あれは2年くらい前だったか。星巡りをしていたら、0と1で構成される星があってな。そこで行き倒れていた者を助けた時にもらったのだ。お供え物として。

星華:
 ? 0と、1ですか?

ノウリジ:
 そうそう。
 変なこと言ってたなあ「ニサクメなんだけど行きづまってて、どうにもしかたない」ってな。何のことかわからなかったが。とりあえず話を聞いてやったら、「あー助かった。お礼にこれを受け取ってくれ」と言うもんだから。それだ。
 書類入れに見えるけど、書類入れにあらず、という訳だな。
 「異界へ通ずる書類入れ」か。
 変なのもらっちゃったな。
 どうするこれ。捨てるか?
(「捨てる」という言葉で、ある賢者を思い出す)
 いや、やめとこ。捨ててもろくなことがないとみた。
 
星華:
 では、今までどおり、こちらに保管しておきますか?

ノウリジ:
 ああ頼む。
 じゃ、俺は西へ行って来るから。


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