女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



14 桔梗畑の幽霊3

 ユエの屋敷を、ユエをぶら下げたままで出て来たエフィルは、何かを察知した。
「おや? 明理沙の声?」
 屋敷を出た瞬間に、空気が、エフィルにとってピリピリと張り詰めたものになっていることに気づいた。
「私を呼んだ痕跡が、空気に残っている……」
 ユエが、にこっとほほ笑んだ。
「そうでーす! あのね、エフィル様。明理沙ちゃんが、『助けてエフィル様』って叫んでたの! カイがネズミになったとかなんとか。でもでも、そんなのエフィル様に聞かせたら、エフィル様、ユエのところから出て行ってしまうでしょ? だから、ユエの屋敷の中には、届かないようにしたのー! うふっ!」
「何!?」
 エフィルが血相を変えた。
「それはいつの話だユエ!」
 エフィルにぶら下がったままのユエがほほ笑む。
「うふふ! 2時間くらい前ですわ! 偽りの桔梗畑のあたりからだったわ! うふ! 今頃、どうなっているかしら!」
 愕然として表情で、エフィルはユエを見つめた。彼女を叱り付けたかったが、……ユエはそれでわかるような相手ではない。というか、永遠にそんな人道的なことは理解しないだろう。
「じゃあな! ユエ!」
 言うやいなやユエの前からエフィルの姿が消えた。ぶら下がっていた相手が消えたことで、ユエは街道の石畳の上に落ちた。
「きゃあん! 待ってぇエフィル様ー! 私も、ついて行きまーす!」
 ユエの姿も、その言葉を残してそこから消えた。

「ヒヒヒヒヒヒ! お前はここから桔梗畑に落ちて死に、そしてネズミのお前はしばらくは私の配下としてこき使われた後に、同じように桔梗畑に落として殺してやるのだ! ヒーヒヒヒヒヒ!」
 偽りの桔梗畑の上空に、明理沙と、カイネズミは、紫色のもやに包まれて浮かんでいた。
 もやからは、しんしんと、冷たく痛い感覚が明理沙に伝わってくる。
「そんな! 助けて!」
 明理沙は叫んだ。あの銀色の閃光が脳裏に浮かぶ。その時、どれほどの苦痛が、明理沙に死をもたらすのだろうか。
「……助けて? なつかしいねぇ。それは死にかかってた私が何度も何度も叫んだ言葉さ? だけど、誰も助けやしなかった! だから助けてって言う人間を、絶対に私は助けてなんかやらないのさ! 助けてもらえなかった私の、この私の苦しみを味あわせて、恨みを晴らすためにねえ! ヒーヒヒヒヒ!」
「チューチュー! チュー!」
「うるさい! ネズミ! ハッ! あんた達の都合なんてどうだっていいのさ! 王の継承者捜しをしてようが世界を救おうがね! ヒヒヒ……かわいいあの子が水晶玉なら2つも持っているんだ! お前らが死ねば、あの子を王にして、……私の恨みを晴らしてもらうんだ! ヒーヒヒヒヒヒ!」
「チューチューチュー!」
 ネズミは首を振り、狂ったように鳴きわめく。明理沙は、このもやが、なんであるのか、わかった。……カイの、取るに足らない叫びに、そういえばシナーラは神経質になって怒った。そして、カイは、ネズミに……。
「あなたは、シナーラの、お母さん……?」
 もやに問う明理沙に、ネズミは強く数度頷いた。
「チュー! チュー!」
「そうさ! お前らが見殺しにした、桔梗畑に住む魔法使いだったのさ! でも、もう、そんなもの! 恨みを募らせるだけの記憶にしかなっていないがね! ヒヒヒヒヒヒ! 死ね!」
 もやが、明理沙を、桔梗畑へ突き落とした。
「キャー!」
「チューチューチューチュー!」
 ネズミにされたカイが小さな体を振り絞って鳴く。
「うるさい! お前の説教なんかを聞く耳はもうないんだよ! あたしが、あたしがまだ希望を持ってたころに、そんなものは聞かせればよかったんだ! もう私には何もない! 恨みしかないんだよ!」
 青いもやがゆらゆらと揺れ、地へ届く星の光を揺らす。
「チュー!」
 薄い青紫色の広い広い桔梗畑に、悲鳴を上げながら少女が落ちて行く。
「チューチューチュー!」
 もやは、嗤う。
「これでまた一人、不幸な者が増えた。あたしは、あたしは一人で恨まなくていい。この世を恨む者がまた増えた。ヒッヒッヒッヒ! こうしてどんどん恨みを持つ者を増やして、世界中が私と同じ恨みに染まるのさ! そしたら、そしたら、私は……誰を恨まなくてもよくなる! 恨みは皆のものとなるんだからね!」




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