明理沙とカイは、金糸の君の城へと案内された。断崖に囲まれた大きな城。ゴオオオオ、と、巨大な風の塊が、あちこちの城壁に吹き付けて音を立てる。
「……」
明理沙は辺りを見回した。広い。
お城なんて、初めて見た。外観もそうだが、内部など見たこともない。1階、というのだろうか、城の一番下の階は大きなホールで、荘重な石柱が、頭上に続く大建築物を優雅に支えていた。
隣を歩くカイを見ると、彼は別に城の様子に驚いてはいなかった。平然と金糸の君達についていっている。彼は王の子供だったのだから、城には慣れているので当然だろう。
やがて、明理沙たちは、階段をいくつか上って、ある部屋についた。ここが城の何階なのだかさっぱりわからない。灰色の石造りの部屋で、灰桃色に灰色でツル植物の紋様が施されている絨毯が敷かれ、濃い飴色の大きな机が置かれていた。
金糸の君が口を開いた。
「自分のことを言うのがまだだったな。私はリディアス、沈思の森に住む魔法使いだ。隣にいるのはシルディ、私のシルバースターだ。彼女のことは本人から聞いたらいい。そして私の肩に座っているのが、妖精ハニール・リキシア」
するするとそう言って、金糸の君は黙った。
「ほんとに必要最小限しか口を開かないのね」
まったくもう、と、シルディが呆れた表情で彼を見るが、金糸の君の方は平然としている。ハニール・リキシアはそんな二人を見、苦笑して肩をすくめた。
ところで明理沙は、金糸の君の言った言葉に引っ掛かるものを感じていた。
ハニール・リキシア?
明理沙は眉根を寄せた。
聞いたことがある単語だ。そう、最近聞いた。誰から聞いた? 確か、あれは夜、……妹が、
「光輝の妖精ミス・ハニール・リキシア?」
思い出すと同時に、明理沙は声を上げていた。
ぎょっとしたのはカイだった。
「何で知ってるの!?」
「え? 本当にそうなの?」
当たっていたのだ。彼女は光輝の妖精。妹の大好きな作り話の中で生きる「イメージ」ではなかったのだ。
「ううん。私は知らないんだけど。妹が、そんなことを言ってたから。……そうなのね。あれは物語じゃなかったんだ」
リディアスは、ふと自分の左肩に座っている婦人を見た。
「君は異世界でも知られているのか?」
「いいえ。異世界で私を見たのは、エドガーだけ」
黄色の光に囲まれた、手のひらほどの大きさの美しい婦人はゆるやかにつぶやいた。
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