女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



52 毎日来る刺客

 王宮近くの古びた館。
 庭には枯れ木しか立っていない。全て、この家にあるものは、朽ちている。午前の新鮮な風に吹かれて飛び込んで来た、付近の桜の木立からの緑の葉も、その館の敷地にかかった瞬間、枯れ葉色に変わった。
「くすくすくす。カキ、シナ、ご苦労様。報告ありがとう。カイは随分苦労したみたいね? 次の王捜しではなくて、これはまるで彼のための冒険みたいね」
 古い屋敷の、真っ暗な地下室に、あどけない少女の声が密やかに漏れる。先程、真っ暗な地下室の壁を、2羽のカラスが擦り抜けて飛んで来た。2羽はどうやら、少女の前の小さなテーブルの前に乗っているらしいが、闇の中で、まったく見えない。
「でもね、私はカイには会えない。もう外へは出られない」
 童話を読み上げるようにあっけらかんとした口調でそう言う。少女は、自分よりも丈の高い椅子に腰掛けて、ゆっくりと足をぷらぷらさせた。
「一生まっくら」
 およそ、闇には似つかわしくないからりとした口調だ。

「そう。一生ですわね」

 闇の暗さの底を行くように、静かというより陰湿な女性の声が忍び込んで来た。
 だが、少女は動じなかった。
「そうよ? なあに? なにか御用?」
 おままごとのように他愛ない世界でしか生きていないような、稚い響きの少女の返答に、女性の呪わしい響きの声が、まるで悪意の毛細血管を張り巡らせるかのように少女へと纏い付く。

「あなたを殺しに来たのよ。白の大魔法使いさん?」
「……」
 静かに、しいん、と、痛いほどの沈黙が落ちた。
 だが、その静けさの水底から立ち上がるように、凛とした少女の声が、地下室一杯に広がった。
「退け! あなたに殺されるような命など持ってはいない!」
 聞こえるものが聞いたら、石作りの神殿が吹き飛ぶような荘厳な重みを持った崩壊音が響いた。
「ギャアア!」
 女性の歪んで醜くしゃがれた叫声が上がった。
 崩壊音は響き続ける。
「こ、子供のくせになんなの! 父親そっくりじゃないの! お、おぼえておいで!」
 おののき、うわずった声が紙切れのように聞こえた。そして、轟音にかき消されるようにして気配が消えた。
 やがて、あたりは元の静寂の闇に戻った。
「やれやれだわ? 全く、何のつもりなのかしらね、毎日毎日飽きも懲りもせずに。さ、カキ、シナ、またカイの様子を見て来て報告してちょうだい」
 あどけない少女はそうため息をついて、また椅子に座って足をぷらぷらさせた。
 カラスたちは、また飛び去って行く。




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