沈思の森の上空を「再び」一陣の暴風が襲った。
「邪魔するよっっ! リディアスはどこだい!」
石の床を、足音高く、薄紫の髪の魔女が歩いて行く。
今度は本を数冊持ったまま彼女に会ってしまったシルディが、肩を竦める。
「何か用事?」
2度目の来訪を果たしたルイルは、ものすごい剣幕でまくし立てた。
「用がなきゃ、こんなとこに何度も何度も何度も何度も来たりするかい! あの底意地の悪い男を出しな! 私の家の物が何から何まで蝋に変わってるんだよ! 私が苦労して集めたそりゃもう沢山の薬草や術具が全部蝋だよ蝋っ! きっちり責任取ってもらおうじゃないか!」
鬼のような迫力に、シルディは2歩下がり、再び肩を竦めた。
「今は無理ね。病人のお見舞中だもの」
「おーみーまーいー?」
ルイルの怪訝な表情に、シルディはうなずく。
「そう。だから少し待っていてくれる?」
「この城の中で、一体誰が病人になるってんだい? ハニール・リキシアかい?」
「違うわ」
「それ以外に、誰かこの城にいるってのかい?」
「明理沙よ」
「はあっ? 明理沙? 明理沙って誰だい?」
「ルイルったら……」
シルディが呆れた。
「ルイルも会ったはずでしょう? 明理沙。次の王を選ぶ女の子よ?」
「ええー? ええと?」
3秒の沈黙の後、記憶をたどるように、視線を右にやったり左にやったり天井を仰いだりしてルイルは、パンと手を叩いた。
「あー! そうだったそうだった。忘れてたよ! 明理沙って名だったねえ? それがどうしたんだい? 具合が悪いってどうしてさ?」
「それがねえ」
執念深い所もあるが、かなり忘れっぽい所もある。彼女の内面は、本当に謎に包まれている。シルディは簡単に事の次第を話した。……ルイルを刺激しないようにさりげなく言葉を選んで。
「そうかいそうかい、つまり魔法慣れしていないのにあっちこっち連れ回されて、よっぱらっちゃったんだね。んで、刺激しないで欲しいわけだ。よしよし。わかったよ、わたしゃ優しいから、それじゃあ、しばらくおとなしくしとこうじゃあないか」
シルバースターは微笑んだ。
「助かるわ」
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