女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



60 解くんだよ!

 明理沙の部屋を出たら、そこには、鬼の形相のルイルが立っていた。仁王立ちで。
「アハハハ! あたしゃ、待ってたんだよ! あんたのお見舞いが終わるまで! ここでこうしおとなしく待ってやってたのさ! 感謝をおしっ、リディアス!」
 出口を塞がれた金糸の君は目を細めた。
「そこをどけ」
「んなっっ! どけ、だって!? 私の言葉が聞こえなかったのかい!? あんたに用があってここでこうして待っててやったんだよ!」
 するりと、金糸の君の姿がかき消えた。
 はっとしたルイルが視線を廊下がわに転じると、遥か向こうに、歩み去って行く姿がある。
「リディアス! お待ち!」
 猛牛のように、ルイルが後を追った。ドドドドドという足音が、彼女に振り切られんばかりにしてようようついていく。
「きいいい! 話をお聞き! あんたが私の屋敷にやった蝋化の魔法を解くんだよ! あたしの大切な薬草と術具が台なしじゃあないかい!」
 フッと、金糸の君の姿がかき消えた。
「ああ!」
 ルイルが視線を廊下がわに転じる。と、遥か向こうに歩み去る姿があった。
「あんなところにっっ! こらぁ! リディアス、お待ちー!」
 引き放たれた矢のように、ルイルが後を追った。それに伴って沸き起こるドドドドドという足音が、彼女に振り切られんばかりにしてようやくついていく。
「きいいい! 話をお聞き! あんたが私の屋敷にやった蝋化の魔法を解くんだよーっ! あたしの大切な薬草と術具が台なしじゃあないかい!」
 金糸の君は振り返りもせず歩いて行く。魔法の力を借りているらしく、駿馬のような勢いのルイルが追いつけないほど速い。ただ、彼の声だけが面倒臭そうに後返ってきた。
「そんなもの自分で解けばよかろう」
「解けるかい、あんなのッ! どこの世界に何から何まで蝋にしちまう奴がいるんだい! 家の物はゴミから砂粒まで全部蝋だよ! 一々解いてたんじゃ、何十年かかるか知れたもんじゃないよ! かけた奴が責任持って解きな!」
「私はお前の術を跳ね返しただけだ」
「そんな訳あるかい! さっきのあたしの魔法をその辺の石だとしたら、あんたのあれは西の荒野にある岩山みたいなもんじゃないかい! あんた、……ただ跳ね返したんじゃないだろ? ええっ!?」
 リディアスは、ゆっくりと首を傾げた。
「……。さあ? 半分寝ていたので覚えていない」
 寝てんのにそこまですんのかいッ! と、ルイルが吼えた。
「ああ腹立たしいッ! いいから元に戻すんだよ! それから普通に歩きな!」
「知らん」
「ああそうかい! じゃあこっちにも手があるんだよ!」
 一向に二人の距離は縮まらなかった。だが、ルイルは立ち止まり、大仰に手足を動かした。両手をいっぱいに広げて円を描き、足は鶴の舞のように片足立ちになっている。その様子を明理沙が見たら、子供番組の正義の味方がする変身ポーズを連想したことだろう。
「私と契約を結びし神聖なる雷の獣よーッ! 私への助力を願う! 出でよーー! 雷・獣!」
 美しい声だが、ポーズが間抜けだった。とても。
 一方、金糸の君はそれに構わずどんどん去って行く。きっと、ルイルがどんな格好で魔法を使おうともそうしたに違いない。
「リディアスーッ! 無視すんじゃないよっ! あんたに、あんたにねえッ、ギャッフーンと言わせてやるよッ! 私の家を元に戻すなら、……フフフ今のうちだよ? あーはっはっはっはっは!」
「うるさい。私は今から眠る」
 リディアスは振り返りもせずに、ぼそりと答えた。そんな小さな声では、相手に聞こえない。まあ聞かれたにしても、怒りを増幅させるに違いなかった。
「お待ちったら! ええい! もういいわ! 雷獣! さあ! あの男に雷を落としておくれ!」
 ルイルの1メートルほど前に雷獣が現れた。その姿は、ゆらゆらと蜃気楼のようにぶれている。以前に明理沙とカイが見たもののように、実在している感じがしない。たよりない姿だ。雷獣の尻尾は馬のそれのようで黄色い色をしている。体は熊のようにずんぐりしており、色は赤。ところどころに黒い毛が生えている。それは胴体を雷のようにジグザグに走っている。顔は凶暴な猫のようだ。色は黄色。そして、歌舞伎の隈取りのような黒い模様が、目の縁や口の周りにある。
 そんな怖そうな外見の雷獣が、「グルルルル」とうなった。これから突進する闘牛のように、足で床を蹴る。
「ちょっと城の結界が邪魔だけど、まあいいわ! さあ雷獣よ! 行っておくれ!」
 ルイルが号令をかけると、雷獣は「グオオ」と咆哮を挙げた。そのまま、すでにずっと向こうを歩いていくリディアスに向けて駆け出す。なんと、それとともに、雷獣の体から放電現象が起きる。白い稲妻がバリバリと体の表面から生まれた。
「オーホホホホー! さらばー! リディアス!」
 ルイルは風のように駆けて行く雷獣を見、そして、かなたの金糸の君を見て、哄笑した。
 しかし、
「ギャッ!?」
 次の瞬間、雷獣は悲鳴を上げ、なんと凍りついた。動きが止まったのではなく、正真正銘、氷漬けにされてしまった。定規で測ったようにご丁寧な直方体の氷に、雷獣は閉じ込められてしまった。
 ずうん! と、氷漬け雷獣が床に鎮座する。
「んがっっ!?」
 ルイルは、予想しなかった展開に口をあんぐりと開けた。
「あああああ! 雷獣ー! かわいそうに! なんてこったい!」
 ルイルが雷獣に駆け寄る。
 見事に凍っている。
「おッのれええーい! リディアスめえー!」
 烈火のごとく自分勝手に怒るルイルは、両手指を複雑な形に組んで呪文を唱えた。
「『この城の空気を司る精霊よ、我の糾弾の意志に力を貸したまえ!』ふふふふふ! リディアス! あんたが小さいときからリキシア以外の妖精や精霊と交流を持てないのは知ってるのさ! どうやらこの城の精霊は野放しにされたまんま、あんたの支配下に入ってないようだねえ?」
 フッフフ、と、笑いを間にはさんで、ルイルは嬉しげに叫んだ。
「ところが、あたしときたら、どうだい!? 精霊でも妖精でも、これこのとおり自由に行使できるんだよーぉ! さーあ! 城の空気を司る精霊よ! 行ってぇ、リディアスの部屋を燃しておしまぁいー!」
 芸術的に澄んだ秋空のように美しい声が響き渡った。




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