女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



64 黄と紫の理由

 その様子を眺めているだけのエフィルとカイ。カイは、事態が今一つわからないので、隣に立つエフィルに小声で尋ねた。
「なあ、エフィル。どうやら大変なことになってるってのはわかるんだけどさ。でも具体的には一体どうなってるんだ? 僕にはよく見えないんだよ。教えてくれないか?」
 リディアスの白魔法の、噂どおりの拙さぶりに、あっけに取られて刮目していたエフィルは、カイに問いかけられ、我に返った。
「……ああ。空気が汚れているんだ。これは、ほとんどルイルのやったことだ。この城の空気の精霊を行使したようだよ。精霊を支配する魔法を使った跡があるから。普通の使い方ならこんなに汚れたりしないんだが。……最初から汚い目的のために使用するって宣言した上で、支配下におこうとしたから、精霊が抑圧されてしまったんだ。精霊は理には従う。が、自由な存在だ。それなのに、邪念のために使われたのだから、たまったものではないだろう。無理に支配下におこうとしたから、精霊が嫌った。理が乱れて、空気が汚れた」
 なんてことを……。と、カイは閉口した。
「つまり、精霊が、嫌な仕事をさせられて、参ってしまったわけだな」
 エフィルがうなずいて肯定する。
「まあそうだな。それがまず一つ目だ」
「他にもあるのか?」
「ああ。もう一つな」
 エフィルは両手で、何かを包むように合わせた。
「カイ、私の手の中を見てみろ」
「うん」
 カイが覗き込むと、エフィルの手の中にある空気は、別の色彩を帯びていた。今まで透明に見えていた空気が、黄色と紫のまだらになっていた。
「ひゃあ。なんだこりゃ。気味悪い色合いだなあ!」
 ゲテモノを見たように顔をしかめるカイ。エフィルもあまりいい顔をしない。
「これが、恐らく私たちが来る以前の空気の状態なんだ。ここ一帯こんな状態だったはずだ」
「うわあ。いかにも毒ですって感じだな」
 エフィルはうなずいて、口の中で呪文を唱えた。さきほど金糸の君が唱えていたのと同じ言葉を。すると、エフィルの手の中から白銀の目映い光がぱあっと生まれた。光が消えると、とんでもない色合いだった空気は、全くきれいなものに戻った。
 あっと言う間の浄化。見事な白魔法だ。感心したカイは、向こうでルイルが四苦八苦しているのを眺めた。あちらは消え入りそうに明滅する光でやっとこさ浄化している。
「向き不向きってあるんだな……」
 カイは、エフィルの鮮やかな手腕に見ほれて、思わずそう口にしていた。
「うん、まあな。それで、話の続きなんだが、今の空気、紫の方が、ルイルが使った魔法によるものなんだ。空気の精霊が、嫌々働いている空気だな。もう一つ、黄色の空気があっただろう?」
「うん、あった」
 エフィルは、包んでいた両手を広げた。清浄な空気が辺りに拡散していく様が、目に見える。ということは、周りの空気はまだまだ汚れているのだ。
「その黄色い空気は、金糸の君が作ったもの。いや、空気ではないな。紫色の空気と対抗させるために精製したものだ」
「よくわからないなあ……それなに?」
 カイは首をひねった。そして聞く。
「精製したものって? それは一体、どんなものなんだ?」
 エフィルは、カイにわからせるべく、ちょっと口をつぐんで言葉を捜した。
「……そうだな。空気の精霊の性質と拮抗(きっこう)する性質を備えたもの……。うーん。『空気の精霊の天敵』を作ったんだな」
 ちょっと待った。とカイが言う。
「空気の精霊の天敵ってことは、俺たち、息ができなくなるのか?」
「いいや。黄色の気体の性質からして、空気の精霊の魔法を使えなくするものなんだ。だから、息をするだけなら大丈夫。けれど、これは絶対に良い空気ではない。精霊の力は本来、善き力。それを失った空気は、少なくとも弱っている」
 ふうん。とカイが首を振った。
「嫌々働かされた上に、天敵までやってきたんだな。そりゃあ、精霊は相当に困っただろうな」
「そうだな。だから、それを治すには、浄化の魔法しかないんだ」
 浄化の魔法は、汚れたものを洗い清める魔法。
 ということは、と、カイは結論を導いた。
「あの二人は、きれいな空気を汚し弱めたくせに、後片付けすらできないという訳なんだなー?」
 エフィルは、ふむふむと納得するカイの横顔を見た。保安官という公的な仕事に就いている立場上、二人への非難は、自分には言いにくいことだった。それを、この少年があっさりはっきり言ってくれた。
「カイ。辛辣だけど、良いまとめかただな」
 エフィルは感心して、カイにそう言った。
 対するカイは、ぴんと来ていない様子で、ぼけっと首を傾げた。
「へ? そうかなあ? いや僕は素直な気持ちを言ったまでで」
 天然でそんなことを言えるとは、と、エフィルは驚嘆した。
「そ、そうか……。意外と手厳しいんだな、カイは」
「そうかなあ? ま、いいか。じゃあ、だからシルディが怒ってるんだな。なあ……シルディ、怒ってるんだよな? きっと。シルディが怒ったところって知らないからわからないけど」
 エフィルは、首を傾げながらうなずいた。
「多分、とても怒っているんだと思う。私も、ああいうシルディは見たことなかったから、……ちょっと、そうなのか判断できないんだけど」
 二人は、とりあえず表情には出さなかったが、呆れた気持ちで、苦心惨憺している年長の二人の姿を眺めた。そして、ああいう人間にはなるまい、と堅く決心した。




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