金糸の君からここまでの話を聞いて、明理沙はあれっと思った。
「もう間もなく、私は、肩の荷を下ろすことができるだろう」
と、国王が話したということは、つまり
当時、すでに、次の王が誰か決まっていたも同然じゃない?
思い至った明理沙は、どっと疲れた。
今までの苦労は一体、一体、なんだったんだろう。
「リディアスさん、」
「なんだ?」
応ずる相手は変わらぬ無表情。
「私、気付いたことがあります」
口にするのも虚しいけれど、一応は確認しなければならない。
「次の王は、もしかして、その時に決まっていたのでは? それなら、私がマジックキングダムに来た意味は、無いのでは?」
「……」
リディアスは、無言で、金の髪が幾筋か混じった白い髪を撫でた。白い御力、金の星。彼の髪は、マジックキングダムを象徴するそれらの色を表しているようだった。無表情で膨大な力を持つこの魔法使いの姿は、なんてこの国の王に相応しい人だろう。
当時にして、すでに次の王が決まっていたのだ。
それは、明理沙の勝手な解釈ではないようで。証拠に、金糸の君は否定せず、次のように言ってのけた。
「明理沙。私はお前を呼んではいない」
少女は肩をすくめた。
「ええ。呼んだのはカイですね」
あ。
そこで、明理沙は気付いた。
そうだ。マジックキングダムにではなく、カイにとって私が必要だったんだ。だから「カイが」呼んだ。
金の星も得られず、頼れる家族も失った、弱くて悲しいカイの世界。彼にとっての世界は崩壊寸前で。
だから私を呼んだんだ。
私が来た意味、ほんとうは、そういうことで。
では、王の水晶玉は?
カイが持っていた「王の水晶玉」。しかし、王はもういたのだから、あれはそうではない。
そこまで考えて、明理沙はまた気付いた。
「リディアスさん。それでは、王の水晶玉は、あなたが大切にしているものが、そうですか? カイがあずかっている物ではなく」
金糸の君が丹念に丹念に磨き上げ、ついには自ら光り輝くようになったあの水晶。
果たして彼はうなずいた。
「そうだ。少年が持っている水晶玉、あれはおそらく、王が死んだ時に、自らの力を振り絞って作り上げたのだろう……無意識なのかもしれんが」
金糸の君は、そこまでわかっている。ということは。この王は、カイ自身知らないカイの本心すら、察しているのではないだろうか?
「リディアスさんは、最初から全て知っていたんじゃないですか? ……カイのことも」
「いや。名前すら覚えていなかったが?」
「え、ええ、たしかにそうですけれど……」
たしかにそうだったが。しかし彼は「カイの恥ずかしい過去」の方ははっきりと覚えていたのだ。まるきり覚えてないとはいえない。
明理沙はくいさがった。
「でも、それでも知っていたのではないですか? このマジックキングダムの中で、一人の男の子が何をしようとしたかを」
王を探すと言う名目のもとに、
自分がもてあましている不安を誰かとわかちあって和らげるために、
誰かを、異世界から呼ぼうとしていることを。
「次の王になったあなたは、知っていたのではないですか?」
「……」
少しの沈黙ののち、金糸の君は息をついた。
「そのとおり。私は知っていたが、それを看過した。済まなかったな、明理沙。どうにも不安定な先王の子の気持ちが、君を召喚してそれで晴れるならと思ったのだ」
霧が晴れてきた。
「話しているうちに、君の体も快復したようだ」
金糸の君の言葉に、明理沙はうなずいた。
「はい。元気になりました。そして、全部わかったような気がします」
「いや」
金糸の君は、首を振った。
「まだ、君が知らないことがある」
「え?」
「目が覚めたら、必ず、先王の子供がそれを教えてくれるはずだ」
夢は、そこで終わった。
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