女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



83 本当の悲しみ

 明理沙とカイは、王宮から金糸の君の城へ戻る。
 沈思の森の終わり、城へ続く断崖に挟まれた道の始まりのところで、明理沙は言った。
「カイ、」
 崖下から吹き上げる風が、髪を揺らす。
「カイは、もう知ってるんじゃないの?」
 明理沙は、まず、そう尋ねた。
「何を?」
 カイが聞き返した。
 風が吹く。
「新しい王様のこと、」
「……」
 カイは、口をつぐんだ。
 少年は、沢山のことを、少女に話さずに、これまで連れまわしてきた。
 明理沙は、最初は彼のことを疑い、次に彼のことを信じ、やがて彼の無知を知り、そして全てを知ってから気付いた。
 彼は「知っているのだ」ということを。
 そして、彼が動いてきたのは、世界の救済のためでもなく、弱く儚い自分の身を救うためでもない、ということを。
 証拠に、今、カイはひとつも慌てていない。
 泣いて泣いて、そして今は、なんて静かな顔をしているのだろう。
 今までで一番、落ち着いている。妹のことを私に話しきって。多分、カイが抱えてきた全部を、私に話し終えて。彼は今、安堵している。
 ようやく、彼は彼に戻ったのだ。「本当の問題」を見つめる彼にもどったのだ。
 もう一つ、明理沙は聞いた。
「カイは、私に一緒に悩んで欲しかったのね? そのために私をマジックキングダムに呼んだのね?」
 カイは目を落とした。落胆したわけでも、後ろめたい訳でもなく、内心を明かす言葉を組み立てるために。
 風が吹き、沈思の森から木の葉をさらって二人のそばを通っていく。
 カイは、まるで心がそこにあるかのように、自分の胸を見つめた。
「……うん、」
 そして、うなずいた。
「知ってたんだ。僕は。だって、見ていたんだからね、王宮でずっと」
 今なら説明できるよ、と、つぶやいた。
「明理沙、僕は、父の死の重さを、独りで受け止められなかった……。妹ティカは、父の命を救う為に正面から力の限り向かい合ってきたから、その死を悲しむことができた。一方、ただ見守るしかなかった僕は、悲しみの大きさにどうにかなりそうで……そこから、気を逸らさなければ生きていけなかった……。死んだ父のためにできることを作らずには、正気で生きていくことすらできなかったんだ」
「亡くなったお父さんの役に、立ちたかったんだね?」
 明理沙はそっととりなした。
 カイは息を吐いた。心につまっていた最後のひとかけらを解き放つように。
「うん。父を失った悲しみが大きくて、でも悲しむこともできなくて、何かしないと悲しむ資格すらないと思って……これは無力な僕が、」
 カイは、三つの水晶玉を取り出した。
「これは、僕が作り上げた『父のためにできること』だったんだ」
 それは、王位の象徴であったり、世界を救う希望であったり、書庫で見た禁書の誤解であったり、様々な意味を持っていた。同時にそれは真実ではなく、ゆえにいかなるときも浅はかな印象があった。彼も、彼の持つ水晶も。
 真実は、父を亡くしたかなしみ。
「父さん、」
 カイは、三つの水晶玉を額に擦りつけた。父を慕うように。
「父さん……」
 明理沙は、何も言えずに、ただ彼の肩に手を置いた。
 三つの水晶玉は、徐々に姿を無くし、やがてカイに溶けこんで消えた。
 おそらくそれらは元々「カイの魔法の力」だったのだろう。少年は自分の身から力をしぼりだし、水晶に変えたのだろう。真実がわかった今、あるべき場所に戻ったのだ。
 カイは、地面に膝をつき、両手で大地をつかんで、泣きつづけた。悲しみの大きさの余り悲しみを忘れていた少年が、今ようやくできる、父の死への嘆きだった。




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