シンデレラ2

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

22 ドブネズミ

「ぎゃああああ!」
 サロンに、絶叫が響き渡った。
「なななな!どどどど、どうしてえ!どうしてロビン様、ネズミになったの!」
 ショッキングピンクのドレスをまとったローズが、腰を抜かして、じゅうたんの上にへたり込んでいた。
 長椅子の前に倒れていた長身の美しい中年の姿は、腹を上にして転がっている一匹のドブネズミに突然変わった。大きさが大人の猫くらいはある。
「あわわわわ!」
 ネズミの気味悪さに、ローズは床に座り込んだまま後ずさった。
 黒褐色の針のような毛並みが、ぴくぴく震えている。太さが人間の小指くらいもある尻尾が、ひょろりと伸びていた。
 ローズは、真っ青な顔色で、首を振りながら、つぶやいた。
「いやーん。ロビン様はネズミだったのん?美しい私に、ネズミさんまでもめろめろで、ついには化けて言い寄って来たってことなのかしらーん?ああ怖い、美しいって、罪だわん」
 ローズが、半ば恐怖、半ば自己陶酔の表情で、自分で自分の肩を抱いた。
 そのとき、バタン!と、勢いよく、サロンの扉が開いた。
「!」
 驚いたローズがそちらを見ると、先ほど、自分の命令を無視した召使いが駆け込んで来るところだった。
「あなたーっ!」
 ローズの方には目もくれず、召使いはドブネズミの方に駆け寄って床に足を折り、ずんぐりしたそれをさっと抱き上げ、その上、悲しそうな顔で頬擦りまでした。
「うげっ!」
 思わず、ローズはその光景にうめき声を上げた。
 はっとした召使いはローズの方を見た。
「まあ!先ほどは失礼致しました!すぐにケーキをお持ちしますわ!」
 ネズミを抱いたまま、召使いはぺこぺこと頭を下げた。
 反射的にローズは首を振った。
「い、いらないわよん!汚いっ!あ、え、あ、いえ、いるわん!でも、あなたじゃない人に持って来させてん!命令よっ!一台まるごとよん!まるごと!」
「は、はい!ただいま!」
 召使いは、ネズミを抱いたまま立ち上がり、駆けて行った。
 ローズは召使が出て行った扉を、しばらく呆然と眺めていた。
「一体、なんだったのん?」



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