シンデレラ2 後日談3
axia 〜 天女降臨/魔女墜落 〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

6 偽情報

「私に、河の調査をしろと?」
「そうです」
 魔法使いの確認に応じたのは、王妃。彼女は、玉座を背後にして、悠々と立っている。
 玉座には、威厳を消し飛ばした王が、おどおどと座り、やさしげな細君のドレスの影にかくれて、小さく震えている。
「あなたも知っているように、王宮のそばを流れる河で、船の事故が、続いています」
「面白いように、続いていますわね」
「そうですね。憂うべきことです。今、技師たちが、原因を調べているところですが……」
 魔法使いは、うなずいた。
「知ってますとも。先ほども、うれし泣きの声が、漏れ聞こえておりましたわ? よほど、楽しい作業ですのね」
「あら……? そうなの?」
 それを聞くと、王妃は、おっとりと首を傾げた。
「まあ、そうだったの。泣くほど楽しいのかしら? てっきり、苦しんでいるものだとばかり、思っていたのだけど」
「いいえ。技師冥利につきますのね、きっと」
「そうだったの」
 それじゃあ、うっかり、悪いことをするところだったのねえ、と、王妃は、意外な顔をした。
「楽しんでいたのね? 技師たちは、そんなにも仕事が好きだったのね。苦しむだなんて、とんだ誤解ね」
「ほほう。楽しんでいたとな? それはそれは」
 王妃の背後から、夫の声が、染み出た。震えながらも、いくぶんかは、明るいものだった。
「それならば、ままま魔法使いの手助けなど、不要だ。このまま、彼らだけにやらせようぞ。そうしよう」
 一方、三人のやりとりを、じっと聞いていたプリムラは、ファウナ王子に、同情した。
 師匠の偽情報によって、彼ら技師たちの家路は、断たれてしまった。
 このままでは、ファウナ王子は、しばらく家に帰れない。愛しい新妻の待つ家には。フロラの待つ新居には。
 フロラは、今頃、家で王子を待っているだろう。一人で。
 一人で。
「……」
 そこまで考えて、プリムラは、何も言わないことにした。それまでは、王子のために、助け舟を出そうかと思っていたのだが。
「では、この御命令は、無かったことになさいますのね?」
 恭しい伺い方で、クリスティーナが、駄目押しをする。この上なく、嬉しそうだった。
「そうですね」
 ふんわりと、王妃が微笑んだ。
「よきかなよきかな!」
 王が、快哉をあげた。魔法使い本人よりも、ずっと喜んでいた。



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