シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

118 お菓子の香りと涙

「フロラ?」
 それは、彼女が、王子の予想とは違う様子をしていたからだった。
 彼女は優しく微笑んでもいなかったし、苦笑してもいなかった。少しくらいは不機嫌な顔をしてくれるかな、と、王子は甘い淡い期待を抱いてもいたが、それも違った。
 フロラは泣いていた。
「フロラ? フロラ、どうしたの?」
 王子は驚き戸惑いながら、踊り場の床に膝をついた。
「どこか痛いの? もしかして具合が悪かった?」
 フロラは、ただ首を振って、白い手で涙をぬぐう。
 白い前掛けをつけた彼女からは、甘い香りが漂ってくる。
 ああ、お菓子を作っていたんだ、と、王子は思った。が、今はそんな話をしている場合ではない。
「大丈夫?」
 王子は気づかわしそうに、フロラの右肩に手を掛けた。
「病院に、兄のところに連れて行こうか? 今日は当直だから、診てくれるよ」
「あら、どうされましたの? フローレンス様」
 ファウナ王子の右隣に、ガーネットが当然のように寄り添った。
 王子は、むっとした。



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