「フロラ、大丈夫?」
先に階段を駆け下りる王子は、振り返って気遣った。
フローレンスは丈の長い服を着ているので、階段ですそでも踏んだら危ない。
王子の言葉に、優しい微笑みが返った。
「ええ。どうぞ、わたくしには構わずに、先に行ってください」
「うん……」
だが、王子は曇った声で応じると、立ち止まった。
二階から一階に下りる階段の途中だった。
走るのを止めた王子に、フローレンスは首を傾げた。
「王子?」
王子は、軽く微笑む。
「しばらく大学の方には来ない方がいいね。私は」
薄い青紫の瞳が、少しかげっていた。
王子は暗い銀の髪をかきやる。
「こんなことでは、他の学生たちに迷惑がかかる。王宮にこもっていた方が良さそうだ」
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