シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

31 冗談

 ファセット家の長女の願いと桃色のバラのような微笑みに、王子は、ショウブの葉のようにすっと背筋を伸ばして、深く微笑んだ。
「ご冗談を。ガーネット」
 王子の青紫色の瞳が、優雅にガーネットを見つめた。
「二人だけで話をして、何をされるつもりでしょうか?」
 瞳の中に、今までになく強い光が作られた。
「フローレンス嬢は、あなたにだけは近づかせない」
「まあ」
 ガーネットの瞳が揺れた。
「そんな……」
 王子は、明らかに傷ついている令嬢に、さらに言う。
「他の令嬢方は天使のような心根だが、あなたは違う」
「ファウナス王子」
 背後のフロラが息を詰めて、声を漏らす。
 他の乙女たちも、おろおろした顔になり、口々につぶやく。
「王子様、王子様が、そのように厳しいことをおっしゃるなんて……」
「どういたしましょう。お気を悪くされたのでしょうか」
「お心もお姿も美しいガーネット様のことを、そんなふうに」
 乙女たちは、思いがけず聞いた王子の冷たい言葉に、ひどく動揺した。まるで自分に対して言われたことのように。
 しかし、当のガーネットは、ことさら明るく微笑んだ。
「違いますわ。皆さま。ご安心ください。王子様は、ただ、ご冗談をおっしゃっているだけなのです」
 その言葉はおびえる乙女たちを気遣っての方便とも受け取れる。
 乙女たちは、目を見開いた。
「え?」
「まあ……。ご冗談を?」



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