「フロラ!」
王子がフロラの右手を握って引き寄せる。同時に、令嬢に鋭い目と声を投げた。
「ガーネット! 悪ふざけはやめてくれ!」
声を上げた王子に、ガーネットは微笑んだ。
「まあ! 機敏ですこと。大変結構ですよ。ファウナ王子」
令嬢の微笑みは大きく変化していた。
今までを、花園の妖精とするならば、今は、いばらの荒野に立つ魔女。
「そうそう。大切な方は、大切に大切にお守りくださいね。そうでなければ、このファセット家のガーネットが、いつ何をするかわかりませんわよ?」
愛らしい声のままで、居丈高に言い放ち、ガーネットは哄笑した。
「ホーホホホホ!」
王子は忌々しそうに舌打ちする。
「誰がファセット家だ? 私の前で適当なことを言うな。お前は魔女。すでにファセット家の戸籍からは名前が消えているだろう!」
ガーネットは可笑しくてたまらない様子で笑った。
「ホホホホ! そうですわよ? ですから、魔法使いたちからは『ファセットの幻の姫君』という麗しい別称もいただいておりますの。まあ、私の本当の姿なんて、あなたがた王族と、わたくしの家族と、魔法使いたちしか、ご存知ありませんものねえ?」
「そうだな、残念なことにな。ご両親の厚い庇護のお陰で、あなたはそうして令嬢のままでいられるのだ」
王子は厳しい顔でガーネットを見つめる。
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