「どうしようか。フロラ。今晩の舞踏会は止す? 家で二人の帰りを待っていた方がいい?」
フロラは首を振る。
「いいえ」
優しく笑った。
「どうぞご一緒させてください」
お妃選びに辟易している王子を思いやって。
王子はフロラの優しい心がうれしかったが、同時に複雑な感情もあった。好意はうれしい。しかし、それは、仲間としての好意だった。
「ありがとう。フロラ」
王子は微笑む。
私が縁談を断り続けるのは、あなたを妃に迎えたいからなのだ。
だが、まだ、言えない。
可哀想だ。
しかし、そう思う王子の胸に、さきほどのクリスティーナの言葉が突き刺さる。「すでに巻き込んでるではないですか。知らないよりも、知った上でそうなる方が、少なくとも本人が納得できるでしょう?」
王子は、心の中でため息をついた。
自分は、単に逃げているだけなのかもしれない。
フロラの新しい生活を壊したくない、という気持ちだけではないのかもしれない。
想いを告げることで、関係自体が無くなるかもしれないことを、恐れているのかもしれない。
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