シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

48 歯車を見つめるフロラ

 大学を出て、王宮に到着し、二人は時計室に入った。
 フロラは、「ただいま」とつぶやいて、歯車たちを見上げる。
 これは、フロラの父、カールラシェル教授の最後の作品。
 フロラと父との絆。
 十年の苦難を乗り越えさせた約束。
 フロラは、父がそこに宿っているかのように歯車を見つめた後、王子の方を向いた。
「ありがとうございます王子。この部屋のことを、わたくしにまかせてくださって」
 王子は首を振る。
「ううん。こちらこそありがとう。あなたがいれば、とても心強い。私にも教えてもらえれば、フロラが忙しい時には代わりができるんだけれど」
「そんな。いいのです。父のしたことですし。それに、ここに来るのが楽しみなのです。父に会えるようで」
 フロラは、一日に一度は必ずここに来る。時計室の調整を行うために。
「でも、そのうちに、そんなに頻繁に調整を行う必要はなくなります。方法もずっと簡易になるでしょう。十年の間に、大学で研究が進んでいましたから」
 フロラの言葉の後ろには、きっと、こういう言葉が続く。
 そうしたら、お別れですね。
 聞きたくない。
 調整の仕方を教わることを、そこまで強く希望しないのも、できるだけそばにいたいからだった。本当は、教授のからくりに触れたかったけれど。
 王子は、話題を変えようと思った。
 何か、他に、話すことはないか?
 何でもいい、とにかく話をそらさなければ。
 そこで、王子は思い出した。
「あ……そうだ。兄から頼まれ物があったんだ」
 本当に今の今まで忘れていた。研究室にいたときまでは覚えていたが、令嬢の襲来によって、そんな平和なことづては頭から吹き飛んでしまった。
 ファウナ王子は、フロラにここで待っているように言うと、時計室を出た。

 が。



←戻る次へ→

inserted by FC2 system