シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

49 王子様ー!

 通路に出て侍従を呼んだところで、見つかりたくない集団に見つかった。
 時計室を出て左側の彼方、大広間への入り口付近に立つ、華美なドレスの一団が、王子の姿を発見した。
「あらぁっ? ファウナス王子様がいらっしゃるわよ!」
 早速、かん高い声が鋭く上がった。
「え? そんな。今は大学でお勉強のはずでしょ? 王宮にいらっしゃるわけがないわ」
「いいえ。たしかに王子様でらっしゃいますわ。私の目は確かです! ほらっ! あちらを見てくださいな、皆さん!」
 派手なドレスの一団が、まるで異変を察知した水鳥の群れのように、いっせいに同じ方向を向いた。
「んまっ! 本当だわ!」
 王子は硬直した。背中に戦慄が走った。
 まずい。
 一番まずい。
 「金で令嬢の名を得た娘たち」に見つかった。
 先般、工学部に来た令嬢たちは、一人をのぞいて、正真正銘、良家のご息女だった。深い伝統と豊かな環境の中でおっとり育てられた、汚れを知らない温室栽培のバラの花だ。
 今いるこの娘たちは違う。彼女たちは、玉のこし狙いの、向上心あるいは野心あふれる血気盛んな女性たちだった。彼女たちの保護者は、いわゆる才覚で新しい事業を興して成り上がった一代者。今は世の春を謳歌していても、富の基盤は弱く、明日どうなるかはわからない。同業者との容赦ない闘争を繰り広げ、浮き沈みの激しい暮らしの中にあって、王子の妃となることは、非常に安定した高い水準の生活が約束されることを意味する。
 娘を王宮に出すのは、不安定な未来への保険と投資だった。
 王子は、別にそれが悪いとは言わない。むしろ、自分の身をさらに隆盛させていこうとする力強さには、感服するが。
 だが、追いかけられるとなると、話は別だ。
 苦手この上ない。
「王子様ーーー!」
 彼女たちは黄色い声を上げて、金糸銀糸の輝く絢爛豪華なドレスを翻し、カモシカのような素晴らしい脚力で、それでも優雅に駆けてきた。
「時計室に持ってきてくれ! じゃあな!」
 侍従にそう言い置くと同時に、王子は全速力で走り出す。



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