「手がクリームまみれになったね」
「でも、おいしいですよ?」
うれしそうにケーキを食べるフロラに、王子はたずねる。
「フロラ、甘いものが好き?」
フロラはうなずいた。
「はい」
天からの授かり物のように、大切そうにケーキを持つ。
そんなフロラを見て、王子は話の次元が違うことに気付いた。
そうか。
好き嫌いを言えるような生活は、していなかったんだ。
それどころか、まともに食べられない日も多かったのではないだろうか。……たとえ、クリスティーナが見張っていたとしても。
朝から晩まで働かされて、なのに何ももらえない日もあったかもしれない。
辛かっただろうに。
それなのに、歪まずにきれいなままの心で、フロラはここにいる。
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