シンデレラ2 後日談

すぎな之助(旧:歌帖楓月)

73 ご機嫌な叔母のおみやげ1

 魔法使いクリスティーナが帰宅したのは、西の空が橙色になり始めたころだった。
 むろん、一人だった。 薄緑色のリボンがかけられた、大きな白い紙の箱を抱えている。
 修行させていた弟子はどうなったのか? そんなことは、魔法使いにとってはどうだっていいことだった。
「ただいまぁー! フロラ!」
 クリスティーナは玄関に姿を現すと、鼻歌を歌いながら、踊るような足取りで階段を登った。
 すこぶる機嫌がいい。

 舞踏会は日が暮れてから始まる。
 王宮から帰ったフローレンスは、自室で準備を始めた。
 白湯を浴びて浴室から出てきたところで、扉が叩かれた。
「フロラ、ただいま!」
 弾んだ声は、叔母のものだった。
「どうぞ」
 白い絹のガウンを羽織ったフロラが返事をすると、扉が開いた。
 クリスティーナは、フロラのいでたちを確認すると、さらに機嫌よく微笑んで、部屋に入ってきた。
「ちょうどよかったわ! 準備はまだのようね!」
「おかえりなさい。クリスティーナさん」
 フロラはにっこり笑う。が、すぐに、心配そうな顔にとってかわった。
「……プリムラは?」
 クリスティーナは、五月晴れの空のようににっこりわらった。
「知らない!」
 魔法使いは笑みを一つもかげらせることなく、そう言い切った。
「え……」
   姪は、言葉を失った。
「そんなことよりも、はい!」
 悲壮な空気が漂い始めたフロラの様子は眼に入らない風で、クリスティーナは、抱えていた丈夫な紙の箱を、生き生きと差し出した。
「これは?」
 受け取ったフロラは、首をかしげる。少し重い。
 叔母は、見て欲しくてたまらない様子で促した。
「あなたにおみやげ! 今すぐ開けてみて!」



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