魔法使いクリスティーナが帰宅したのは、西の空が橙色になり始めたころだった。
むろん、一人だった。 薄緑色のリボンがかけられた、大きな白い紙の箱を抱えている。
修行させていた弟子はどうなったのか? そんなことは、魔法使いにとってはどうだっていいことだった。
「ただいまぁー! フロラ!」
クリスティーナは玄関に姿を現すと、鼻歌を歌いながら、踊るような足取りで階段を登った。
すこぶる機嫌がいい。
舞踏会は日が暮れてから始まる。
王宮から帰ったフローレンスは、自室で準備を始めた。
白湯を浴びて浴室から出てきたところで、扉が叩かれた。
「フロラ、ただいま!」
弾んだ声は、叔母のものだった。
「どうぞ」
白い絹のガウンを羽織ったフロラが返事をすると、扉が開いた。
クリスティーナは、フロラのいでたちを確認すると、さらに機嫌よく微笑んで、部屋に入ってきた。
「ちょうどよかったわ! 準備はまだのようね!」
「おかえりなさい。クリスティーナさん」
フロラはにっこり笑う。が、すぐに、心配そうな顔にとってかわった。
「……プリムラは?」
クリスティーナは、五月晴れの空のようににっこりわらった。
「知らない!」
魔法使いは笑みを一つもかげらせることなく、そう言い切った。
「え……」
姪は、言葉を失った。
「そんなことよりも、はい!」
悲壮な空気が漂い始めたフロラの様子は眼に入らない風で、クリスティーナは、抱えていた丈夫な紙の箱を、生き生きと差し出した。
「これは?」
受け取ったフロラは、首をかしげる。少し重い。
叔母は、見て欲しくてたまらない様子で促した。
「あなたにおみやげ! 今すぐ開けてみて!」
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