「今すぐ、馬車と御者を用意なさい。今日は、これで最後の修行にしてやるわ。」
美しい師匠はあでやかに微笑み、息も絶え絶えの弟子に命じた。
床にうずくまっていたプリムラはゆらりと顔を上げる。
「馬車と御者?」
「王宮の舞踏会へ、フロラを運ばせるの」
クリスティーナは、ことさらにっこり笑った。
「王子が待っているわ」
「クリスティーナさん、」
何か言おうとするフロラを、魔法使いは静かに制する。
「これも修行なのよ? プリムラを甘やかさないでね。これくらいでは死なないの。ここで甘い顔をすると、このガキの成長を妨げることになるのよ?」
フロラは、心配そうな表情ながらも、うなずいた。
「……はい」
「良い子ね。フロラ」
姪に優しく微笑みかけがクリスティーナは、プリムラには冷たく言った。
「さっさとなさい。それともまた埋められたい?」
「するわよ」
プリムラは立ち上がった。
口から一筋、血が流れた。
それを右手で拭い、楽しそうに嗤って見ている魔法使いを睨み、歩き出す。
「ガキ。返事がなってないわよ?」
クリスティーナはもう片方の靴を脱いで、思い切り投げつけた。
「わかりました師匠」
弟子は革靴を左手で受けて床に落として、師匠を睨んだ。
魔法使いは右手を振って追い払うしぐさをしながら嗤う。
「はいよくできました」
|