日が暮れて、舞踏会が始まる。
王宮の大広間には、着飾った姫たちや貴婦人、それをエスコートする紳士たちであふれていた。
宮廷楽士たちが、明るい語らいを促すような、上品で陽気な音楽を奏している。
王子は、大広間の前面にしつらえられた王族たちの席の中央付近に座っている。
中央には王夫妻がいた。
「ファウナ。今日は誰と踊るのだ?」
王子と同じ濃い銀髪の壮年の王が、低く張りのある声でたずねた。気難しい顔に、抑え気味のいらだちが含まれている。
王の右隣の王妃が、金の髪をゆらして、ふっくら笑う。優しげな笑いじわが、目元と口元に作られた。
「ごらんなさいな、ファウナ。今晩もたくさんの令嬢方が。まるで花咲き誇る庭園のようです。あなたのために、咲いているのですよ」
ファウナス王子は、優雅に微笑んでみせた。
「わたくしの相手はただ一人です」
その返答に、夫妻は顔を曇らせて長い息をつく。
「まったく。今日も逃げるのか。からくり趣味に没頭するのもいい加減にしたらどうだ?」
「フローレンス嬢だって可哀想ですよ? 妃選びに興味を示さないあなたのために、わざわざ時間を割いてくれているのでしょう?」
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