いつもなら、ファウナ王子は、渋い顔になって「放って置いてください」と言って席を立つところだった。
しかし、今晩は違った。
優雅な微笑みを崩さず、ファウナ王子は穏やかに言った。
「父上、母上、兄上姉上、暖かいお気遣いをありがとうございます。ですが、わたくしの想う人は花の女神。花園に咲く花一輪ではありません」
ここにいる令嬢なんてめではない、自分にはもっと相応しい相手がいる。
予想もしなかった発言に、王は驚いて目をみはった。
「なんと!」
王妃は口元に手を当てた。
「まあ……」
兄姉たちも、驚いた。
「興味がなかったのではないのか?」
「逃げていたのではなかったの?」
ファウナ王子は、どの質問にも答えずに、ゆったりと席を立った。
そろそろ、来る時刻だ。
王子は家族に、落ち着いた笑みを向けた。
「しかしまだ結果待ちなのです。少なくとも、それまでは誰も選びません。では、失礼いたします」
|